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© Hikita Chisato

「ライフ 本とわたし」寄稿 本とわたしと魔法

2021.01.09

好きな本を教えてほしい。そう言われたら、誰かしらのエッセイを選ぶと思う。いつからか、好んで手を伸ばすようになったのは日々のこと、身近で起きた出来事を綴ったエッセイばかりになった。たいてい、数ページにまとめられているので、移動の空き時間や仕事の合間の気晴らしにも向いている。

だけど、本を好きになったころのことを思いだしてみると、最初は母が読んでくれた童話やおとぎ話の絵本だったし、小学生のわたしが図書館で好んで借りたのは、どれも妖精や魔法使いが出てくるような本だった。あるいは外国の女の子や男の子の話だけれど、それだってその頃のわたしにしたら魔法の国で起きているような、遠い遠いお話だった。

いつからわたしは、想像できる範囲の本、具体的に役に立ちそうなものばかり読むようになったのだんだろう。どうして精霊とか秘密の花園とかコロボックルを信じなくなって、スピリチュアルとかパワースポットという言葉から距離を置こうとするようになったんだろう。それが「大人になる」ってことだったのかなあ。

わたしが仕事にした写真だって、そうだ。誰かにリクエストされたものを写してばかりいた。そこには、誰の目にも明らかなものばかりが並ぶ。明らかにするために撮る。

だけど、本当は目に見えないものが存在していて、その見えないものこそ大切なのだ。写真に写らないものを写す。そうすると、何かわたしにしか分からないものが現れる。誰かにしか感じられないものが写る。その空間に。その目に、その手に、その横顔に。暖かさ、冷たさ、匂い、風、切なさ、思い出、哀しみ。

いまこそもう一度、物語を読みたい。魔法みたなことがたくさん起きる話が読みたい。自由に空を飛んだり、奇妙な動物と話したり、小さくなって植物の上で休みたい。それからもう一度、写真が撮りたい。

(初出:「ライフ 本とわたし / FALL」 創刊号:2017)