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© Hikita Chisato

「ライフ 本とわたし」寄稿 dog

2021.01.09

今回「ライフ」の裏テーマが「犬」だと聞いて、我が家の本棚をざっと見渡してみた。一人暮らしをしていたときも、結婚をしてからも、うちには動物がいない。けれど実家では犬を飼っていたから、どちらかというとわたしは犬派だと思っていた。けれどどうして、目に留まるのは猫に関する本ばかり。短編や物語のちょい役として登場することはあっても、存在感を示す犬の本がうちにはほとんどない。それで、これでは裏とは言えないよなぁと思っていた「フランダースの犬」を手に取ることになった。

この本を買ったお店のことはよく覚えている。駒沢公園の近くにある、SNOW SHOVELINGという古本屋さんだ。でも、なぜ大人になってから突然「子どものための世界文学の森 フランダースの犬」を読みたいと思ったのかが思い出せない。そのうえ、買ったはいいけど積んだまま、恐らく数年は経っていた。今回初めてページをめくり、お話の内容もちゃんと知らなかったことが分かった。わたしが知っていたのは、アニメーションの「フランダースの犬」で、それも最後の最後にパトラッシュとネロが天に召される場面だけだったのだ。「もう一度読んでみたい。」ではなく「初めて出会った、ネロとパトラッシュの物語」。

ネロは春の野に咲く花と、自分を慕うパトラッシュ、大好きな絵と幼馴染があれば、もう十分だった。確かに、教会にある絵を見てみたいと望んてはいたけれど、そのためにお金を稼ごうとは思わなかった。いまここにある以上のしあわせを求めてない。そんな「フランダースの犬」だけれど、話はハッピーエンドで終わらない。でもだからこそ、少年や犬の純粋さ、優しさが際立ち、ネロが心に灯した希望やパトラッシュの愛情に深く感じ入る。同時に、この世には救いがないのだろうか、という悲しい気持ちにもなる。個人的には、貧しくても絵を、芸術を心から大切に思う気持ちに心を打たれる。こんな気持ちでわたしも写真に取り組めたなら。

同時並行して「アルケミスト 夢を旅した少年」も読んだ。(どこかで犬が出てこなかったかな?と思ったのだ。結局、犬は出てこなかった。)宝物を探し旅に出る少年の話は、諦めずに自分で自分の人生を「選択」することを勧めている。手にしたお金や安定した生活に惑わされずに、心底願っていること、心の声を聞くようにと。でも、最後にたどり着く宝物の在り処は、自分の心の中にあった。

旅に出たければ出れば良い。でも、出なくても良いし、旅に出られない人もいる。二冊の本が言っていることを、真逆だと感じる人もいるだろうし、同じことが書いてあると取る人もいるかもしれない。読む人の状況、心境、タイミングで意味が変わってくるのが本の面白いところ。手に取るタイミング、読む時、もう一度読もうと思う機会、それらもバラバラ。

今回、このような機会があったおかげで、わたしと本棚にあったわたしの本の関係が、改めて親密になったことを嬉しく思う。

(初出:「ライフ 本とわたし / SUMMER」第2号:2019)