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© Hikita Chisato

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毎年、「母と娘が共有する、思い出の料理」をテーマにした写真で、カレンダーを作っている。形もレイアウトもその年お願いしたデザイナーさんに自由に決めてもらい、できあがったら友人知人にプレゼントする。料理は特別なものである必要はなく、娘の記憶に残るお母さんの手料理や、母親自身が得意としてきた料理、あるいは逆に娘が母親によく作った料理でもいいと思っている。

今年は山形県鶴岡市で十八代続く農家、五十嵐家にお世話になった。92歳のおばあちゃんが作る笹巻きが絶品、そうデザイナーの友人から聞いたからだ。端午の節句の頃によく食べるという笹巻きは餅米で作る。二枚重ねにした笹の葉をうまく使い、あく水に一晩浸けておいた餅米を包みこむ。あく水とは、木を燃やした灰を水に混ぜたものの上澄み。アルカリ性のあく水に反応し、餅米は薄黄色く染まっている。

巻き込む作業はコツがいる。いつもおばあちゃんがリーダーとなり、息子の嫁にも孫の嫁にも教えてきた。母娘三代、いやそれ以上続く五十嵐家の伝統。三角形にギュッと巻いたあとは鍋に入れ、離れにある薪ストーブの上でコトコトと煮込む。火の番をするのもおばあちゃんで、煙くても熱くても3時間離れない。時間がきたら火を止め、蒸らしながら一晩置く。翌日葉っぱを開いてみると、中身はプルンと柔らかい半透明な黄色い餅。ガスの火ではこうはならないらしい。黒蜜ときなこをまぶし、いただいた。

あの時の写真を見ると、少しほろ苦いような味と共に、おばあちゃんが話してくれた昔話が蘇る。地主の娘だったこと、乳母がいたこと、町の方から田舎に嫁入りしたこと、子育てが終わってからは日本のあちこちを旅したこと。笹の葉っぱに包まれた、山形の思い出。

(初出:WEBマガジン「R the TIMES/すべてはテーブルから始まる」)