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© Hikita Chisato

「悩む人」本を作る、本を売る

2021.01.09

自分で自分の本を作る。最近ではzine、リトルプレスと言ったりもするけれど、そんな呼ばれ方をする前から、自費出版、ミニプレス、ミニコミなどと名付けられた出版は、随分と前からある。わたしが自分の写真集を作り始めたのは2014年のことなので、まだまだ新参者。その本を販売することに関しては未だに初心者で、修行が足りていない。でもそこには学ぶことがたくさんあって大変面白いので、今年のはじめはその活動について書いてみたいと思う。

個人で本を作ると言っても、きっと動機はそれぞれだと思う。本当ならばマスに向けて出版したいのだけど、そんな機会がなかなか訪れないので自分で作るという人。既に出版社から本を出してはいるけれど、様々ある縛りから解放され、ただただ自分がやりたいことを表現したい人。もともと、大勢に届けようとは思っていない、共感出来る人との出会いを求めている人。

わたしは最初、出来れば自分の写真を多くの人に見てもらいたい、たくさんの人に写真集が届くと良いなと思っていた。けれど、選ぶテーマや写真集の届け方がどうもマスを向いていない。例えば、写真集を手に取ってもらうために写真展を開催するのだけれど、駅から遠く離れていたり、路地裏にあってなかなか見つけられない場所を選んで開いたりする。「もっとわかりやすいところでやった方が良いよ。」というアドバイスを何度受けたことだろう。選ぶテーマも「多くの人に興味を持たれること」を最優先して選んでいない。まず自分が行ってみたい場所だったり、撮りたい被写体を選び、そこから写真集の編集を始める。

そう考えると写真集はわたしのワガママの産物で、そのワガママに付き合ってくれる人がいることは奇跡に近いと思った方が良いかもしれない。ただ、その奇跡に巡り合う可能性を少しでも上げるために、デザインやパッケージに工夫をしたり、置いてもらうお店を選んだり、自ら動いてマーケットに出店したりしている。

売れなくて傷付くことは多い。誰も興味がないんだと情けなくなるし、自信も失う。特に、昨年は本来のzineらしさ、手作り感を意識し、人の手を借りず自分だけで表現しようとしたので余計に。これまではデザイナーのアイデア、料理家のレシピ、インドの出版社タラブックスの写真などを写真集に取り入れ、たくさんの人の力を借りてきた。

ただ、自分だけでと言いながらも、そういう本だったらこうしたら良いのでは?とアドバイスをくれる人たちがいる。その人たちは、ビジネス抜きで「余計なこと言ってすみません。」なんて言いながら、こうしたらどうか、ああしたらどうかと言ってくれる。ありがたい存在だ。

昨年は台湾のブックフェアに参加し、写真集を販売した。ここ数年で学んだことは、並んでいるものが写真集だけだと、少し近寄り難いようだということ。なので、テーマに沿った雑貨を一緒に置いてみたり、いつも何かしらワークショップを開催したりする。それから、写真だから言葉はいらないと思ったら間違いで、丁寧に説明をしてあげると売れ行きも変わる。そこでも、台湾でギャラリーを運営する友人に翻訳や通訳をしてもらい、助けてもらった。

誰かに何かを届けるためには、どんなことが必要なのか。誰が支えてくれているのか。自分で本を作ったから分かったことは数えきれないし、今はそれが何よりの財産だと思っている。

(初出:WEBマガジン「salitote」:2019)