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© Hikita Chisato

日本のおはしを観察に①

2020.04.07

2020年の1月に、秩父にある浅見箸製作所を訪ねた。もともとは日本各地の箸職人さんたちのために、木地の卸をされていた浅見さん。生活に大量生産のお箸が浸透してきてからは木地の注文も減少してしまったそうで、それならばと現在はご自身でオリジナルのお箸を制作されたり、食育の現場でお箸の使い方、持ち方を教えたりされている。

浅見さんの工場には、加工途中の木地がまだまだたくさん眠っている。お父さまが始められた家業の箸屋さん。以前は職人さんを何人も抱え、みかん箱にぎっしり詰めた木地を漆塗り職人たちの元へ出荷していたそう。けれど実は、木地が出荷できるようになるまでには、やらなければならない工程が様々ある。

まずは木材をざっくりした幅に裁断し、それを機械や道具を使いながらミリ単位で調整していく。数年前までその作業をご兄弟でされていたけれど、今はそれを浅見さんがお一人で、できる範囲で進めていらっしゃる。

基礎となるお箸の形に整えたあとは、それぞれのデザインに削り出しウレタン樹脂などで表面を塗装する。

冬場の土間はとっても冷え込む。広い工場に冷房は付いていなかったから、夏は夏で、きっとたくさん汗をかきながら作業されるんだろうなあと想像できた。地元秩父のFM放送をラジオで聴きながら作業するのが楽しみだそう。

今は動いていない機械も一つ一つ見学させてくださり、住居兼お店として使われている母屋ではお箸の民俗史や言い伝えなどを教えてくださった。奥さまにはお手製のいなり寿司もご馳走になった。

おはしのある風景を求め、日本を飛び出し海外で取材をすることの多かったわたしですが、本当は自分の暮らす土地に根ざす「おはし」も観察したいと思っている。日本人なら実は誰しもおはしにまつわるエピソードの一つや二つ、持っているのではないか。けれど、身近にありすぎてあまり顧みられることがないおはし。これからも、地味にわたしなりの「おはし民俗史」を記録していけたらな。

突然見学させて欲しいとお願いした見ず知らずのわたしにも、優しく長時間付き合ってくださった浅見さんと、ご紹介くださったツグミ工芸舎の足立さんにここで改めてお礼を申し上げたいです。ありがとうございました。