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© Hikita Chisato

わたしの三十路の入り口

2021.01.13

二度目の緊急事態宣言を受け、2021年最初の撮影も出張も飛んだ。こうなったら、ずっと気になっていたHDDの整理をしよう!と、あれこれフォルダを確認していたら、30歳になる前日に出発したNY旅行の日記が出てきた。

「もう30歳だろ。世間から見たら価値が暴落してるのわかってる?」

そんな言葉は真に受けずに聞き流せば良かった。だってわたしは、ずっとずっと「早く30代になりたい!」と言ってきたのだ。飴と鞭で手懐けようとするおじさんには苛々していたし、30歳になれば勝手に脂も乗ってきて、仕事相手もそれなりに扱ってくれるようになると思い込んでいたのだ。(その考えも、今考えるとやっぱり若気の至りだったのだけど。)

もちろんその場で怒ったし、しばらく「こんなこと言われたんだけど!」とあちこちで触れ回り、感情を発散していた。なのに、日付変更線を超えてNYに行こうなんて計画を立ててしまうのだから、まんまと呪いの言葉に囚われていたし、相変わらず影響を受けやすい性格だった。

30歳の記念の、祝福に満ちた旅ではない。ギリギリまで足掻いてやる、そんな覚悟。ちょうどその頃、レンタルビデオショップで借りたセックス・アンド・ザ・シティばかり観ていた。なので、あのデパートのあの店で靴を買って、五番街を歩く。そんなことさえってのけてしてしまった。

43歳になったいま、あの頃のわたしのエネルギーが眩しい。たぶんこれからも、何かと理由を付け、どこか旅には出るだろうけど、29歳最後の日の勢いに勝ることはないかもしれない。