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© Hikita Chisato

「幕があがる。」寄稿 松本について

2021.01.09

ずいぶん久々に松本を訪れたのは、写真集の制作を市内にある印刷会社に任せたことがきっかけでした。南米ブラジルが舞台のその写真集には、ざらりとした手触りの紙が合う。でもそういう紙を使うとたいてい、影の部分がうまく印刷されないから心配です。「ここのディティールをもう少し出したい!」「この色は少し鮮やか過ぎる。」印刷に立ち合い、口を挟むことに少し憧れていたわたしは、あずさに乗って松本に向かいました。

待っていたのは、仕事と松本が好きで仕方ない様子のプリンティングディレクター。全国から集まってくるデータを、どうしたらクライアントの想像以上に仕上げられるか。機械やインクのクセを掴み、現場の職人と理想の作品を作り上げるためにはどうすれば良いか。そんなことを考えるのがとても楽しい!そう思っているのが伝わってくるような人でした。これは、余計なことは言わず彼に任せちゃおう、しばらく話しているうちにわたしは思いました。帰り際、窓から見えたのは美しい北アルプス。実は、この山々に誘われ関東から引っ越してきたんです、と彼は言いました。なるほど松本はそうして人を惹き付ける力があるのか。

松本の空気をもっともっと吸いたい、町を味わいたいなと思ったわたしは、写真集の発売に合わせ松本で写真展をし、期間中ずっと在廊することにしました。会場は、駅前の大通りをまっすぐ10分ほど歩いた先にある、本と珈琲のお店。出来て1年ほどのお店ですが、古いビルを改装し作られた店内は既に独特の味があります。

会期中は毎日、店主が丁寧に淹れてくれる珈琲を飲みながら、店を訪れる人とおしゃべり。朝早くにまずやってくるのは、ご近所にの人たち。散歩の帰りに寄り道するのでしょうか、手ぶらで身軽な格好です。昼過ぎからは分筆家、詩人、演出家、音楽家や写真家など、どうも決まった時間に勤めていなさそうな人がやってきます。夕方くらいになると、同じようにカフェを営む人や、週に数回しか店を開けない古道具店の店主、北欧雑貨を輸入販売する女の子などもふらりとやってきては息抜き。

彼らから得た松本見所情報を総合してわかったこと、それは、どうやら滞在2週間では味わい尽くせない、ということでした。また行こうっと。

(初出:まつもと市民芸術館の広報誌「幕があがる。」:2014)