2018.05.01

台湾のホテルに到着したのは夕方だった。休みを合わせ、夫婦で行く久々の海外旅行。 けれど、LCCの機内食は有料オプションのため何も食べていない。名物、夜市への期待が高まる。食堂で注文するより、屋台の方が希望するものに当たる確率は高い。目の前のものを指差し、一つ欲しいとジェスチャーで伝えればよい。普段は冷めた目で眺める行列に並び、饅頭を手分けして作る様子を見ながら順番を待った。
翌日も朝から張り切って街に出た。すぐに、出勤前の人々で賑わう食堂を見つけたが、注文難易度は屋台より上がる。観察しても、たくさん並ぶメニューと出てくる料理が結びつかないからだ。なんとか、あのテーブルに乗っている料理を!と伝え、掌に乗せたコインと札から代金をピックアップしてもらう。面倒な客だ。

出てきたのは、クレープのような薄い生地で具と卵をくるりと包んだ、長細く柔らかそうな食べもの。甘塩っぱいソースをかける。あとで調べてみると、台湾の朝ごはんの定番、蛋餅だった。もちもちした食感が癖になる。何の予備知識もない「はじめて」を味わえるのはこの一度きり。きっと次からは、お気に入りのこれを探し、味わうことになるのだから。

台湾が初めての夫は、有名な小籠包の店やフカヒレスープが名物というレストランにも行きたがった。互いに歩み寄り、順番に食べたいものを食べていたのだけれど、最後の夜に喧嘩になった。十分満喫しホテルで休みたかった私と、どうしても最後にイカのスープを飲みたい夫は、屋台の前で睨み合った。最初は威勢良く呼び込んできた屋台のおじさんも、不穏な空気は言葉が通じなくとも分かる。勝手にすればと私がその場を去ったあと、気の毒そうに夫を見て、いいから早く行けとアイコンタクトで促したらしい。イカのスープより大事なことをおじさんは知っていた。

(初出:WEBマガジン「R the TIMES/すべてはテーブルから始まる」)