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© Hikita Chisato

【Sakumag substackより引用】ヤレ紙文具を作りました(+イベントのおしらせ)

2022.05.13

*今日のポストは、Sakumagで作った本「We Act! 2」の制作で出た「ヤレ紙」を文房具にするという試みを発案してくれた疋田千里さんのレポートです。ヤレ紙文房具はオンラインショップでも販売を始めました。

<ヤレ紙アップサイクルのきっかけ>
みなさんは、「ヤレ紙」という言葉を聞いたことがありますか? わたしはフォトグラファーで、昨年自分の写真でポストカードを作ったのですが、そのときに印刷会社の方からヤレ紙の存在を教わりました。ポストカードを刷るために選んだオフセット印刷という方法は、想定したインクの色が出るまでに何枚も何枚も試し刷りをする必要があります。その試し刷りに使った紙のことをヤレ紙と呼ぶのだそうです。

Sakumag Study(旧勉強会)で環境問題について学ぶうち、わたしもできる限り環境に配慮したもの作りをしようと意識するようになりました。その気持ちを、何かを作る際にはいつも印刷会社の方に伝え、あれこれ相談に乗ってもらっていました。ヤレ紙は通常、リサイクル業者に引き渡され、再生紙として生まれ変わるそうです。ただ、紙をリサイクルするにもCO2は排出されますし、紙からインクを除去するなどたくさんの工程が必要とのこと。

「廃棄されるわけではないけれど、もしその紙をそのまま何かに利用することができたら、もっと良いのでは?」
そんなことを考えるようになりました。

Sakumagでは以前から、アパレル会社の倉庫に眠る古着に「We Act!」というロゴのシルクスクリーンプリントを施し、ブックフェアで販売していました。誰かが不要としたものも、別の誰かが必要としているかもしれない。そういうものは、リサイクルショップやバザー、最近ではフリマアプリなどでやり取りされることも増えました。ただ、Sakumagではそんな不要とされたものに何かSakumagらしさを加えて再生させたい、リサイクルではなくアップサイクルをしたいと考えてきました。

一度使ったものを資源とし、新しいものを作るために再利用するのがリサイクル、使ったものをそのまま再利用するのがリユース、そしてアップサイクルは、使ったものに手を加え、ものとしての魅力をアップさせて再利用することです。古着にシルクスクリーンプリントを施すことは、わたしたちなりのアップサイクルの方法でした。

アップサイクルの活動は当時、SakumagのSlackに立てたチャンネル「merch(マーチ)実行委員会」のメンバーが中心となり行ってきました(現在はmerchチャンネルに移行)。merchと言うと、行進のmarch(マーチ)?と思われる方も多いかもしれません。わたしもそう思っていましたし、merchってどういう意味ですか?と聞かれることが多いです。merchとは商品やグッズを意味するmerchandise(マーチャンダイズ)からきた略語で、英語圏ではアーティストのグッズを指すこともあるそうです。あのBTSのグッズもmerchと呼ばれているので、馴染みのある人もいらっしゃるかなと思います。

わたしがそのチャンネルに参加したのは、Sakumag初の小冊子・『We Act! できることは必ずある:わたしたちのアクション集』(以後、WA)が発行されてしばらく経ったころでした。わたしはSlackの別のチャンネルにこんなことをあげていました。

「シルクスクリーンプリントのワークショップに参加したことがあります。家でもできて楽しいですよね!」
「環境に配慮した印刷を学ぶうちに、環境に良いと言われるインクやCO2排出量に着目するだけでなく、そもそも紙を無駄にしないことも大事だなって気がついたんです」

すると、merchメンバーに「その視点をmerch作りに活かしませんか?」と声を掛けてもらったのでした。(何かを作るのが好きな人、ぜひ仲間に入ってくださいね!)

ちょうどその頃、Sakumagでは 2021年10月に開催された「Tokyo Art Book Fair」に向けて『We Act! #2 自分ごとのストーリー』(以後WA2)の制作をしていました。それに合わせてmerchを作ることになり、メンバーで話し合いをしました。 木のバッヂやステッカーを作るアイデアが出るなか、わたしは印刷会社の方から聞いたことを思い出し、ヤレ紙のアップサイクルを提案しました。印刷物を作る際に生まれるヤレ紙も、リサイクルからあと一歩先へ、手に取ってくれた人たちの気分がちょっと上がるものにアップサイクルできたらいいな。そうして、Sakumagのヤレ紙文具作りがスタートしました。

<理想のパートナーとの協働>
こういう型にはまらないもの作りで最も大切なのは、自分たちの価値観に近いパートナーを見つけることですよね。Sakumagは営利目的でものを作っているわけではないので、価格を下げるためにいろんな人の時間やエネルギーを削ってとにかくたくさん作るとか、できたものをただただ売り広げ、必要以上に儲けたいわけでは、ない。お願いするパートナーにもその気持ちを共有してもらいたいし、できればチームメイトのように、何をどうすれば良いのか一緒に考えて欲しい。クライアントと業者ではなく、フラットな関係で意見を交換したい。

そんなパートナーになってくれる会社ってどんなところでしょう? きっと、社内の風通しも良くて、現場の人が自由に声を上げられる環境なのではないでしょうか。社員のみなさんが変に無理せず働けていたら、わたしたちとも気持ち良くやりとりしてもらえる気がしました。

この会社に相談すると良いだろうな。そう思い今回ご協力をお願いしたのは、長野県松本市にある印刷会社・藤原印刷、それから東京都江東区にある製本会社・篠原紙工です。2社とも、かねてからわたしと仕事でお付き合いがあり、環境にやさしいもの作りをしたいという思いを受け止めてくれる会社です。なので今回も、WA2の印刷を藤原印刷に依頼し、その際に出たヤレ紙をもらって篠原紙工に持ち込みました。

明るい光が燦々と入り、鉢植えのグリーンも生き生きしている篠原紙工の事務所「Factory 4F」。大きなテーブルを、篠原紙工のみなさん、藤原印刷の藤原章次さん、merchメンバーで囲み、協働の始まりです。

表紙の紙はA3くらいのサイズの丈夫な厚紙。テストプリントされた部分は、色が濃かったり、薄かったり、擦れていたりと全てバラバラです。本文の紙はWA2の16ページ分が1枚に印刷されていました。この2種類の紙を使って、いったい何が作れるだろうか。まずはSakumagにあればいいなって思うものから考えよう!

「WAはオンラインでも販売するから、郵送する際に包装する紙や、レターケースがあると便利だな」
「プラ製のファイルの代わりになる紙ファイルがあれば、WAを持ち運ぶときに使いたい」
「本文の紙は余白があるから、そこをうまく切り出してメモパッドにできないだろうか」
「Sakumagのカードもあると嬉しいね」

思いついたアイデアを次々と口にする時間。話はふくらむばかりで、これはちゃんとまとまるのか? なんて思ったりもしましたが、篠原紙工のみなさんは、わたしたちがそれぞれ、ひとりごとのように呟いた言葉も拾ってまとめてくださいました。

「レターケースはWAを並べて2冊入れられる大きさにするのはどうですか?」
「紙ファイルは定番のA4サイズより小さめ、WA2のサイズに合わせてカットしてみはどうでしょう?」
「端材の余白だけにこだわらず、文字が印刷してある部分もメモパッドとして使いませんか? Sakumagの活動を知る人たちなら、そんな発想の転換を面白がってくれそう」
「無駄を出さない、環境に配慮というのであれば、断裁した切れ端は名刺サイズのカードとして使えます。シュレッダーにかけたような紙のかたまりは緩衝材にできるし、帯状に切った部分は本をまとめる帯にも使えますよ」

と、わたしたちのアイデアが具体的なかたちになって返ってきたり、想像以上の提案をもらったり。

Factory 4Fの下にある工場には、断裁や糊つけをはじめ、紙を折ったり、スジを入れたり、わたしたちの知らない製本工程に使う機械が並んでいます。とても興味深くて、打ち合わせに行きたい人をmerchメンバー内で募ると何名もの手が上がり、毎回4〜5人で押しかけることになりました。(このご時世に、受け入れてくださったことに感謝します!)

<値付けを通して見えてきたこと>
篠原紙工の方に見積りを出してもらい、制作を依頼してからは、新しい課題が浮かんできました。販売価格をどうするか、という課題です。本来捨てられるヤレ紙を使うため、材料費はかかりません。それならば単価を安くできるのでは?と安易に考えていたのですが、甘かった。既にたくさんの人が知恵を絞り、手を動かしてくれています。その対価をちゃんと支払いたい。街で見かける大量生産のレターケース、ファイル、メモパッドと比較して、同じような価格にしたり、制作費を抑えようとしてはいけないと思いました。一般的な値付けの発想は、販売価格や制作予算ありきですが、わたしたちはゼロから考えていきました。


(左から、完成したレターケース、ファイル、メモパッド)
Sakumagでは何かを作るとき、お小遣いでやりくりしている人でも手に取れる価格にしたい反面、取り扱ってくださるお店に貢献できる価格にしたいとも考えています。また、イベントを開催するときは、お財布に大きな負担をかけずに参加できる場でありたい。このように、価格を設定する際には考慮したいことがいろいろとあり、簡単には正解が出ません。これまでのプロジェクトでも、その都度悩み、ときには実験的な価格設定を試みてきました。例えばWA1を作ったときは、購入する方やお店の方に値段を好きに付けてくださいと提案しました。また、Sakumagのメンバーが集うイベント「Open House」を開催した際は、学生は無料で入場できるようにしました。

こうした値段を付ける行為を通して思ったことがあります。買い物や、何かに参加する費用を出すとき、実は誰もがひとつひとつを無意識に選択、決定しているのではないでしょうか。例え同じように見えるものでも、背景が違う。同じものでも、売り場の人の考え方で値段が違う。なので、ただ安い方を買うのではなく、ものを買う意味を、その場所で買う理由を、それぞれの人に改めて意識してもらうことが大事なのかもしれない。Sakumagのmerchも、この価格にした理由を丁寧に伝えていかなければ。どれだけの人が携わり、手をかけているかを、ヤレ紙の存在をシェアするのと同時に行っていきたいです。

もしかしたら、これを読んでいる皆さんにとって、ヤレ紙文具はちょっと贅沢に感じてしまう値段かもしれません。​​気になるけど買うのはちょっと、という方は、ご自分で作ることもできますよ​​。厚紙2枚を両面テープでとめたら、レターケースにも紙ファイルにもなります。メモパッドは100円でも買えるけれど、手元にあるいらない紙を再利用する方がかっこいい!という価値観が少しずつでも広がっていくといいな。そして、もし多くの印刷会社や出版社が、毎日排出しているヤレ紙を活かすアイデアを真似してくれたら、ヤレ紙の活用がもっと広がるかもしれません。小さな一歩だけれど、社会が変わっていくかもしれません。

だから、無理はせずに。でも「ちょっと応援したいな」って思ったときや、「これやっぱり欲しいな」って思ったときに買ってもらえたらうれしい。わたしたちSakumagのメンバーは常々、「買い物だって投票だよね」と話しています。自分たちが作ったものにも自信を持ち、最善の値付けや販売方法を探りながら、Sakumagの活動やプロダクト、思いに共感してもらえる人たちに、Sakumag merchを届けていきたい、そう思うのでした。

文:疋田千里

編集:ちか、吉田真緒

今回、こんな素敵な試みに一緒に取り組んでくださった篠原紙工さんの仕事をまとめて展示する「篠原紙工のしごと」が東京・六本木の文喫で進行中です。We Act! 2ヤレ紙で作った文具も展示していただいている上、トーク・イベントにお誘いいただきました。担当者の田渕智子さんと一緒にお話します。

以下、詳細を文喫のイベントページより転載します。

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見たことがないような書籍を生み出し続けている製本会社・篠原紙工。製本技術は勿論ですが、制作者と共に「本当につくりたいものは何か?」を考え抜き、本質を捉えて新しいことに果敢に挑戦する姿勢が特徴です。

現在文喫 六本木では、篠原紙工の在り方を知ることが出来る「篠原紙工のしごと」展を開催しています。その展示の中で、篠原紙工のメンバーが「これからの自分たちの仕事はこんな風にしたい」という気持ちを強く感じた、Sakumagとの制作物があります。

話し合いを重ねて通常なら再生紙利用にまわされる「ヤレ紙」 を利用した文房具を一緒に作り上げた、Sakumag主宰の文筆家・佐久間裕美子さんと、Sakumagのメンバーであるフォトグラファー・疋田千里さん。おふたりにとっても、普通なら難しいと断られてしまうような仕事をルールにこだわらない「ゆるさ」 と柔軟性で実現してくれた篠原紙工は印象的だったそう。

自分たちにできる社会へのアクションを考え実践するSakumagの佐久間裕美子さん、疋田千里さんと、篠原紙工の在り方を育んできたチーフコミュニケーションオフィサーの田渕智子さんの3人が、それぞれが考える「当たり前」と日々の葛藤、そして目指すべき姿を語り合います。